地域自立の思想(旭市を訪れて)

032.JPG 大原幽学の耕地整理跡が残されている

 

 文明が進んでいるということは、世の中が良くなっていくことかと思っていると、どうもそうでもないらしいことは、最近の世情がはっきりと伝えてくれる。例えば経済学は社会科学だといわれているが、ノーベル賞を取った学者のレバレッジ(梃子)の理論が儲けだけを考えた複雑な仕組みに使われて、それが現在の世界同時不況の原因になっていると聞くと、驚きあきれてしまう。身の丈を超えた消費行動を促したサブプライムローン問題に端を発した空前の不況から私たちはどう身を守ったらよいのだろうか。旭市を訪れた私には、そんな問題意識があった。答は一つ、アメリカ発の経済破綻が日本をも席巻してしまうグローバル時代だからこそ、よって立つ地域社会を強靭にして身の丈の暮らしを大切にすることである。この信念をしっかり持っていれば、不用意に株や土地に手を出してバブルの波に巻き込まれることはない。この原点を確認するために、今こそ私は世直しのまちづくりが必要なのだと思っている。いや、現代のまちづくりとは、そもそも世直しこそを大きなテーマにしなければならないということだ。そして、旭市を訪れた私は驚いた。その世直しモデルが、すでにこのまちの歴史と現在の姿の中に存在しているのである。旭市の足元に、世界不況を超克する地域モデルが脈々と息づいているという事実は私には感動だった。私は講演の中で、まちづくりの実践手法という話をした。その一つは、“まちづきあい”であるが、市民がとことんまちに触れる(付き合い)と、たくさんのヒントを発見できるということである。旭市の有名な先人に大原幽学がいるが、私は彼こそがこの厳しい時代を乗り切る方法を提示したパイオニアではないかと思っている。彼の教えの先祖株組合や耕地整理、子供を地域で育てる換子教育など過去のものではなく、現在と未来に有効な教えである。農業の教えに自給肥料があるが、まさに現代の自然生態系農業を志向し、地域の自立する経済と文化を指し示している。この幽学の思想が最も生かされている事例は、旭中央病院ではないかと思う。自治体経営の病院が全国で厳しい経営環境の中、確実な経営が行われているのはこの病院の開祖の諸橋芳夫の思想と努力によるが、「医学は文化」と主張する諸橋先生の思想の底に幽学の仁術の思想を重視することは無理のないことである。講演を終えて、椎名洋ラン園を訪ねた。椎名専務の「高価と思われているランを品種改良してより安価なものを一般家庭に提供する、そんな幸せの花作りが目標」という話に、私も幸せを感じていた。講演で訪れた旭市から、私は逆にこの理不尽とも思える時代を、優しく、しかし確かに生きていく哲学を教えてもらった。